研究内容

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我々を構成するもとになる遺伝情報が保存されているゲノムDNAは安定に維持される必要があります。ところが、ゲノムDNAは様々な要因、例えば紫外線などの外的な要因やDNA複製のエラーなどの内的な要因、により常に傷(DNA損傷)を受けています(図1)。生物は多様なDNA修復(DNA repair)機構により、タイプの異なるDNA損傷を修復し、DNA損傷に起因する有害な事象を防いでいます。発生したDNA損傷が修復されなかった場合や、不適切な修復が行われた場合には、細胞死、細胞のがん化が誘発されることが知られており、DNA修復機構が生物にとって重要な役割を果たしていることは明らかです。

図1. 様々なDNA損傷とDNA修復機構の役割

研究テーマ1: 核内構造体とDSB修復機構のクロストークの解明

本研究室では、DNA損傷のうち電離放射線や抗がん剤等により生じるDNA二重鎖切断(DNA double-strand breaks: DSBs)の修復機構を主にヒト細胞を用いて解明する研究を行なっています。DSBはDNAを構成する2本の鎖が両方とも切断される形のDNA損傷であり、DNA損傷のうち最も重篤なものの一つであると考えられています。

電離放射線や抗がん剤によって発生するDSBの修復機構を理解することで、がん細胞においてのみDSB修復を阻害することができれば、より効果的・安全ながん治療につながる可能性があります(図2)。また、DSB修復機構の破綻が発がんを伴う遺伝性疾患の原因となることが知られていることから、DSB修復機構の理解は発がんメカニズムを明らかにすることにもつながります。

図2. DSB修復の理解に基づくがん治療の可能性

我々の研究を含め、これまでの多くの研究からDSB修復の基本的な分子機構が明らかにされつつあります。その一方で核(細胞核)には核小体、nuclear specklesなどの核内構造体(nuclear bodiesあるいはnuclear structuresと呼ばれる)が存在し、ゲノムDNAの核内での分布や遺伝子発現などの機能制御に関わっている可能性が示唆されていますが、これらの核内構造体がDSB修復に与える影響は明らかになっていません(図3)。我々は核内構造体のなかでも転写・スプライシング制御に関与するとされるnuclear specklesがDSB修復に与える影響について解析を進めています。

図3. 細胞核内においてゲノムDNAは核内構造体と混在している

研究テーマ2: ユビキチン化によるDSB修復制御機構の解明

また、我々の細胞内で機能するタンパク質は様々な形で機能制御を受けており、タンパク質翻訳後修飾(post-translational modifications: PTMs)はその代表的なものです。PTMにはリン酸化、アセチル化やユビキチン化などがあり、極めて多くの細胞機能に関与していることが知られています。DSB修復も例外ではなく、これらのPTMによるタンパク質の厳密な機能制御によって調和のとれたシステムとして機能しています。さらに、これらのPTMの重要な特徴として可逆的な反応であることが挙げられます。すなわち、PTMの付加あるいは、除去により特定のタンパク質を必要な時にのみ活性化させたり、細胞内の特定の部位へ動員することができるようになります。我々はこれらのPTMのうちユビキチン化に着目し、ユビキチン化によるDSB修復制御機構の解明に取り組んでいます。ユビキチン化は当初にはタンパク質をプロテアソームによる分解に導くシステムとして発見されましたが、今ではそれに加えて細胞内シグナル伝達系としても重要な役割を果たすことが知られています。前述したように、ユビキチン化は可逆的な反応であり、タンパク質へのユビキチンの付加(モノ、マルチ及びポリユビキチン化が存在する)ではE1、E2、E3と呼ばれる酵素が機能する一方、ユビキチン化の除去(脱ユビキチン化とよばれる)は脱ユビキチン化酵素(deubiquitylating enzymes: DUBs)によって行われます(図4)。つまり、DSB修復が正しく機能するためには、ユビキチン化と脱ユビキチン化が適切な場所、時期において行われることが重要であると言えます。我々はDSB修復に関与するDUBを同定、機能解析することにより、ユビキチン化によるDSB修復制御機構を明らかにすることを目指しています。

図4.ユビキチン化によるタンパク質機能制御

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